「もしも」のはなし。 「もしこの世界がなくなったら、ハルくんはどうする?」 ハルトとティア、二人が草原でまったりしていると、突然ティアはそう尋ねた。 その問いかけには不穏さを感じるものがあったが、まったりと平穏な空気に包まれたこの現状には似合わないセリフのように感じる。 「なんだ? 急に」 だからハルトも不思議に思ったし、原っぱに寝転がっていたが、改まるように起き上がり、ティアと向き合った。 「うーんとね……なんとなく、かな?」 緊張感のない、気の抜けた返事をすると、ティアは控えめに微笑んだ。 「なんだそりゃ」 もしかしたら、何かティアの心が不安定になるような出来事があったのではないか? そう思ってハルトは内心身構えていたが、ティアの態度に安心すると、また先程と同じように寝転がる。 「別に、いつ終わるか分からない世界だからな。想像できない」 「うーん。何かないのぉ? 最後にこれ食べたいとか、やりたいこととかっ」 冷ややかなハルトとは対照的に、ティアはどこか熱い様子を見せている。 気になることがあると熱くなるところがある、というティアの性質を思い出し、ハルトは小さく息をついた。スイッチが入ってしまったのだろう。 仕方なく、『もしも』の未来について考えて見る。 「やっぱ、うまいもの食って、ティアやいろいろ世話になった人に会って……寝るかな」 「最期は寝ちゃうの!?」 「寝てる間に全部終わってて欲しい。痛みとか悲しいこととか、全部分からないうちに」 ありきたりだが、ありきたりなことしか思いつかなかった。 しかし、ティアのぽかんとした反応を見ていると、ここは『最期はティアと一緒にいる』とでも言うべきだったのかもしれない。ハルトがしまったと思った時には遅かった。 「ハルくんらしいかも」 だが、ティアは春との予想に反して、好意的な反応を見せた。 「あたしもね、おんなじかもしれないって思ったの。ハルくんとはもちろんずっと一緒にいたいけど、リューくんやるみちゃんや、家族みんなにも会いたいって思うし、大好きなものを食べて、いつもみたいにお買い物して、いつも通りに過ごしたいなって」 そう語るティアはどこか儚げで、ハルトは思わずドキッとしてしまう。 これは『もしも』の話のはずなのに、現実感があるような気がして、何だか落ち着かなかった。 「そうか」 「うんっ」 心の中の動揺を悟られぬよう、ハルトは平然を装い、ティアは明るく返事をする。 「まあ、全部『もしも』の話なんだけどね。だってこの世界はすっごく平和なんだもん。きっと、おばあちゃんになって天に昇っていったとしても、世界は変わらず続いていくんだと思うな」 ハルトの気も知らず、ティアはのほほんとした語り口調で話す。 今日はやけにお喋りだなと思いつつ、その通りだとハルトは頷いた。 「そうだな。というか、急に終わりになられても困る」 「そだねっ! あたしも困るっ!」 結局は一番現実的な着地点に落ち着く。 面倒なことは、その時になったらゆっくり考えよう。 ティアも満足したのかそれ以上はこの話題が続くことはなく、まったりと平穏な『いつもの日常』を堪能するのだった。 *** 願うなら、二人で過ごすこの時間が永遠に続いてほしかった。 ただそれだけあれば、他に何もいらないはずだったのに……。 |
2017.09.12