ふたりの時間




 あたしたちは、割といつも一緒にいるほうだと思う。
 何か特別なことがあるわけではないのだけど、気づけば恋しくなって、会いたい気持ちが強くなって。あたしのほうからが多いかもしれないけれど、案外ハルくんから会いにきてくれたりもして。
 昔はおにいちゃんだったり、リューくんだったり。るみちゃんと過ごす時間も多かったと思うけれど、気づくと二人で過ごす時間が多いことに気づいた。

 つらかった日々を思い出すと、ちょっぴり今が幸せすぎて怖いけれど。


「そう思ってくれるのは……その、ちょっと嬉しいな」
 という話をハルくんに思い切ってぶつけてみたとある昼下がり。
 なんとなく会いたくなって、連絡して見たらいいよって言ってくれて。すぐにあたしのところにやってきて、ハルくんは少しだけくすぐったそうに笑いながら、あたしの話を聞いてくれた。
 くだらないと笑い飛ばされると思っていたからか、安堵する自分がいる。
「お前も……いろいろあったからさ。なんか自信出てきた」
 あたしの表情が暗かったのが見破られてしまったのか、安心させるようにハルくんは肩を抱き寄せた。力強く、だけど痛みのない程度に身体を寄せられ、流れ込んでくる温もりに自然と笑みが浮かぶ。
「ハルくんも、不安だった?」
 きっとその不安は、あたしが不甲斐ないせいだろう。
 妙な確信が脳内をぐるぐると駆け巡って、またいらぬ暗い気持ちが襲った。
 胸元で両手をぎゅっと握り、震えないようにとあふれそうな想いをぐっとこらえる。我慢することには慣れているから、きっと大丈夫だ。
「そりゃ、そうだろ。……俺はお前が初恋だったし……こんなこと言うのはアレかもしれないが、頼りないというか、お前を支えてやれるかなって……」
「そんなこと! いつもあたしのために……たくさん助けてくれて」
「そうか?」
「そうなのっ」
「ならよかった」
 思っていた会話とは異なる流れにドキドキしながらも、なんとかハルくんの弱音に反論できた。
 それから安心の笑みをこぼしたハルくんは、あたしを抱き寄せている手とは反対の手をあたしの両手に添え、ゆっくりと力を入れていく。
「俺も、ティアのそばにいられて嬉しいよ」
 近距離から甘い声が漏れて、ドキッとしているうちに、ハルくんとの距離はあっという間に縮まってしまった。反射的に目を瞑ると、触れるだけの優しいキスが降りかかってくる。
 困ったことに、何度唇を重ねてもちっとも慣れてくれない。ドキドキはひどく激しい音をかき鳴らしていて、おさまる気配も感じられなかった。
「ハルくん、ずるい」
「何が?」
「……急に、してくるとこ、とか」
「んじゃキスする」
「えっ! んっ……」
 少しのやり取りの後、本日二度目のキスがわたしに降りかかった。不安を消すように、忘れさせるように、何度も雨のように降ってくる。
 恥ずかしい気持ちと、嬉しい気持ちと、言葉にできない気持ちが混ざり合って、最終的に幸せに包まれた。

 あたしはどうしても、いつかを考えずにはいられない。
 ハルくんとの幸せな時間はあっという間で、夢みたいな、ウソのような……。
 だけどすべて本物で、不安だって本物で、その度にあたしを抱きしめてくれるハルくんの温もりだって本物だった。

 今日だってきっと、あっという間に時間は過ぎていくだろう。
 次に会う時、同じ風に過ごせるかどうかも分からない。
「俺はずっとそばにいるぞ。ティア」
 それでも、この人はそう言って隣にいてくれる。
「というか、俺のそばにいてくれよ」
 肩を抱きながら、ハルくんもあたしを必要としてくれていることを、しっかりと教えてくれた。
 一方的じゃないから、対等だと教えてくれるたびに、あたしの不安は落ち着いていく。
「うん! ずっといるよ」

 決してこんな日ばかりではないことを主張しておきたい。
 どこかに出かけたり、もっと明るい時だってある。けれど、太陽が雲にさえぎられるように、日中の明るさが夜に近づくにつれてだんだん暗くなっていくように。
 笑顔の影に隠れていた、じめじめとした自分が出てくるのも仕方がないことだ。
 お天気みたいに、あたしもハルくんも色を変えていく。
 その度にあたしたちは支えあって、最終的に晴れマークに変えていくんだ。

 今日もあっという間に時間は過ぎていく。
 二人の時間はおしまいに近づく。
 それが今のあたしたちだった。


「ありがと、ハルくん」

 

 

 

 

 

2016.02.14

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